東京高等裁判所 昭和60年(う)2号 判決
所論は,要するに,原判決の量刑不当を主張するものであって,「情状特ニ憫諒ス可キモノアルトキ」には当たらないのに,原審が被告人に対し,再度の刑の執行猶予を言い渡したのは,科刑著しく軽きに失し不当であるから,これを破棄したうえ,更に適正な裁判を求める,というのである。
そこで,原審記録を精査し,当審における事実取調べの結果をも参酌して所論の当否を検討するに,本件は,原判示のとおり,被告人が,覚せい剤粉末約0.3グラムを矢島敬兀から無償で譲り受け,これを1回自己に注射して使用したという事案である。すなわち,被告人は,暴力団構成員間の覚せい剤取引に関与し,これを積極的に助力した機会に本件覚せい剤を譲り受け,その後譲受けに係る覚せい剤をなんら自戒の様子なく自ら注射使用したのであって,各犯行の動機,態様はまことに悪質というほかはない。しかも被告人は,既に少年時代からシンナーの濫用に耽り,成人後毒物及び劇物取締法違反等の罪により2回罰金に処せられたが,その後覚せい剤に親しむようになり,このため昭和56年12月22日覚せい剤取締法違反(覚せい剤粉末約0.05グラムの無償譲受け,同粉末約0.03グラムの自己使用及び同粉末約0.07グラムの所持)の罪により懲役10月,3年間執行猶予の判決言渡を受けながら,その執行猶予期間中に本件犯行に及んでいるのであって,薬物依存の傾向が顕著に窺えるばかりでなく,その交友関係や平素の行状に徴しても,規範意識に著しく欠けていると認められることなどにかんがみると,その犯情は甚だ芳しくなく,厳しい非難を免れない。してみると,被告人が反省の情を示し,原判決後自動車運転手,クレーン運転手としてまじめに稼働していること,その家庭の状況等,被告人に有利な情況を十分考慮に入れてみても,本刑は刑の執行猶予が相当な事案であるとは認められず,原判決が,被告人を懲役1年に処したうえ,右刑の執行を4年間猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付したのは,刑の執行を猶予した点において,不当に軽きに失し,到底破棄を免れない。